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たこぶ・ろぐ-日本一お気楽な48歳-

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2006年 12月 16日

古典の新訳

古典文学が次々と新訳で出ている。かつて読んだ名作も訳が新しくなると印象がすっかり変わってしまう。
ということをカフカの「変身」を新訳で読んで実感していたので、新しい訳が出ているとなると、なんとかその新しい方の訳で読みたくなっている。

訳が新しくなるだけじゃなくて、題名まで新しくなっていることもある。「星の王子さま」「ちいさな王子」に、「アメリカ」「失踪者」に。
それが正しいというか、元々の題名にそっているのだなあ。

「ちいさな王子」は、最近新しい訳が次々に出ているので、まあ何が何やらという感じもしないでもないのだけれど。
前に読んだのは誰の訳だったかなあ。それに、こんどのとどれだけ違っているのだろう。ふたつを読み比べてみないとよく分からないかも。
でも装丁もきれいだし(これは大事なことだと思う)、ことさら詩的な表現にもなっていないところがいいかも。って、ほかの訳がどんなのだか分からないので、なんとも言い様がないけれど。
でも名作なんだから、どんな訳で読んでもそれなりに面白いんだけどね。

カフカの小説は若い頃(高校生?)にほとんど読んだはずなんだけど(新潮文庫でほとんど出ていた)、「アメリカ」がどんな話だったかはさっぱり記憶にない。
で、白水社の「カフカ小説全集」の第1巻が「失踪者」で、これがかつての「アメリカ」なのだそうだ。

カフカの長編小説というと、まず「城」そして「審判」とあって、「アメリカ」は3番手、どちらかというとマイナーな部類に入るんではないかなあ。
読み直してみた「失踪者」は、確かにマイナーになるべくしてなったような印象もあるなあ。

主人公はドイツからアメリカ(ニューヨーク)に渡ってきた(家を追い出されて)17歳の青年カール。言葉もままならないカールが、おろおろとニューヨークをさまよう(といっても、この物語は2日かそこらしか書かれていないのだな)という話。

「審判」などと同様、なにか理不尽に右往左往させられる、ちょっと情けない男の話なのだな。それだけといえばそれだけの話で。
そしてカフカの他の小説同様、これは未完のままに終わったようで。というか、どういう結末を考えていたのだろう。さっぱり話の本質が見えてこないまま、物語はだらだらと続く。
このだらだら感がカフカらしくていいのかもしれないなあ。そんな小説を書く人は今まで居てなかっただろうし。

カフカにとっては小説の構成とか話の流れとか、結末までのいわゆる「起承転結」なんて問題ではなかったのだろう。ともかく書きたい部分があって、それを文字にしていって、しかしそうなると自分でも話の収拾がつかなくなって、あえなく中断してしまう。そんな印象がつきまとう。出だしの、主人公がドイツを追い出される理由など、たった1行でオシマイだ。そんなことはどうでもよくて、それからの右往左往だけを考えていたのか。
それで、主人公をどうするつもりだったんだ。どうしようもなかったんだろうなあ。

by tacobu | 2006-12-16 19:57 |


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