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たこぶ・ろぐ-日本一お気楽な48歳-

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2003年 08月 20日

合唱のはなし(^◎^)緞帳(どんちょう)は、いりますか?

よくある学生合唱団の演奏会(定期演奏会、略して「定演」という)のオープニング(社会人の合唱団でも時々見かける)。

会場がいったん暗くなり、「ただいまより・・・」というアナウンス。 しばらくそのまま待っていると、舞台の緞帳(幕)の後から校歌(大学だったら学歌、学生歌などのときもあり)が流れ、するすると幕が開きます。ステージ上には合唱団員がずらりと整列しているのが、薄暗い中ようやく分かる程度。スポットライトが舞台の奥中央にあたると、そこには団旗が。おおっ。と思っているとステージ上がだんだん明るくなり、ようやく指揮者、合唱団員の全貌が明らかに!

わたくしも学生時代、何回も同じような演出でオープニングをいたしました。ま、思ったとおり、ドンぴしゃのタイミングで事が運ぶということはなかなかありませんでしたが。(団旗にスポットがあたった瞬間、ステージ上がパッと明るくなって面食らったりね)
なんでこのタイミングで、徐々に明るくなってくれへんねん、とか思ってたけど、裏方さんにしてみれば「どこで曲が終わるねん?」っていう世界だから、とまどうのは当たり前ですわな。どうしても思ったとおりにやろうと思ったら、裏方さんに曲を十分知っておいてもらうか、曲を十分知ってる人を裏方さんの隣に座らせておくか、ですね。ま、そんな難しいことではないですが。

実は、オープニングがうまくいっても、そのあとがたいへんでね。曲(校歌・学歌)が終わって、指揮者が客席に向かって一礼(拍手が来ますからね、だいたいの場合)。で、指揮者は舞台袖へ退場。拍手がやんで・・・・次に緞帳が閉まるまで、合唱団員は舞台で固まったまま。これはつらい! 舞台の上の歌い手もつらいけど、見てる方もつらいものです。まだ演奏会も始まったばっかりで、大きな拍手をずっと続けるのもつらいし。といって、拍手がやんだ中じっとしているのを見てるのもつらい。

これは各ステージの始まり、終わりも同様でして。お客さんが「乗って」くれた演奏ができれば、緞帳が閉まる時間はずっと拍手が続いてる、ていう幸せな状況があるんですけど、悲しいかな、指揮者が退場したら拍手がなくなる時の方が多いです。緞帳が閉まるまでの時間は結構苦痛なわけです。でも、学生時代はそれが当然だと思っていまして、「苦痛も演奏会のうち」と思ってました。社会人になっても、しばらくはそう思ってたかな。形にこだわってたんですね。

ところが、ローレル・エコーという合唱団に入りまして、田中信昭先生という指揮者に出会って、その考えがひっくり返されたんですね。田中先生は「演奏会はお客と演奏者が一緒に作るものだ」「歌い手は特別な存在じゃない」オープニングについては、緞帳は使わず、「舞台の上にいろんなひとが集まってきて(たとえば広場にひとが集まってくるように)、そこで自然に歌が生まれてくるように始めたい」ってことで、三々五々舞台上に団員が登場して(つまり、整列して行進はしないわけ)何となく並んだところで指揮者登場、となるわけです。ふわ~(^◎^;)。「お客さんと一緒に作るものだから、かしこまることはない。知ってる人が居たら、手を振って応えてもいい」とまで。いままでそんなことをいう人に会ったことがなかったので、この時はカルチャーショックでした。

で、演奏会。これが良かった。自分でもびっくりするくらい緊張しなかったし、何しろ演奏してて楽しかったんですね。よく「お客はかぼちゃかじゃがいもだと思え!」なんてことを言いますが、かぼちゃが笑ってたり、じゃがいもが手を叩いてたら、もっと怖い。それより聴いてる人が「友だち」だと思った方が、緊張しませんよね。歌詞や音程を間違っても許してくれる人ばっかりやと思ったら(^◎^)それだけで楽しい。

自分がやってみてとっても良かったので(つまり味を占めて(^◎^))、当時指導していた学生の演奏会も同じように緞帳を使わずにやってみました。学生の中には「なんか、ケジメがなくなるような感じがしますけど・・・」っていう声もありました。メリハリがなくなるとかね。まあ、当時は緞帳を使わない演奏会は、学生では滅多にありませんでしたから、「よそと違う」ってことが不安やったのは分かりますが。「よそがウチにならってくれたらええねん」くらいに思ってましたけどね。ま、ひとそれぞれ、団それぞれやから、ひとのことまで口は出せませんが。

で、結果ですが、おかげさまでいつもなごやかな演奏会ができたように思います。もちろん、アンケートには「なんで緞帳を使わへんのんじゃ。変や!」っていう意見もありましたけどね。おおむね好評やったようで。後年、大阪にもザ・シンフォニー・ホールやいずみホールなんていう、緞帳のない音楽専用ホールができまして、そこで演奏会をする合唱団も増えて、緞帳の役割は益々なくなってきているような気がします。緞帳いらない派のわたくしには嬉しい限りですね。

余分な話。緞帳というと忘れられない演奏会がありまして。

大阪府立労働センター(通称エル・シアター)のホールの緞帳は、指揮台の内側に降りるんですね。緞帳が閉まっている状態では、指揮台だけが舞台の上、緞帳の外にある状態になるわけです。ですから、指揮者は緞帳が下りる前に退場しないと、ひとり緞帳のこちら側に取り残されてしまうんですね。

まあ、指揮者が緞帳が下りるまで指揮を続けるということは、通常はないわけですが、演出上(その演出もどうかと思うけど)「演奏している間に緞帳が下りてくる」というのもありまして。具体的にはアンコールで、最後の曲が歌い終わると同時に緞帳が閉まる、というのは時々ある演出ですね。

わたくしが見に行ったさる女子大の演奏会。年末の演奏会で、アンコールには讃美歌の「O Holy Night」(この合唱団の演奏会の最後には必ず演奏される)。指揮者のK先生は、その道の大御所で、温かい人柄もよく知られている。演奏会の最後のステージはいつもその先生が指揮をしてはる。もちろん、アンコールもそのまま振らはるわけで。で、曲も終わりに近づいて、K先生、気持ちよく指揮を続けてはる。そこへ緞帳がゆっくりと下りてきた・・・。このままでは先生、緞帳の外に置き去りに!

緊張の一瞬。K先生、下りてくる緞帳に気がついて、ゆっくりと指揮台から降りて緞帳の中にはいるように舞台の奥へと1歩2歩。ほっとした観客からは、安堵の思いと演奏会の締めくくりとで、大きな拍手が。
客席からの大きな拍手に、心優しいK先生、思わず客席に向かって一礼。と、その後頭部に緞帳が・・・「こつん」

by tacobu | 2003-08-20 12:00 | 音楽


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