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たこぶ・ろぐ-日本一お気楽な48歳-

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2007年 02月 09日

この作家は大丈夫なのか?

別に僕が心配することでもないんだけど。綿矢りさの「インストール」を読んでそう思ったのだ。
いや、「インストール」は面白かった。この芥川賞作家17歳ののデビュー作、文芸賞受賞作。
登校拒否気味の女子高生が、部屋にあるものをすべて廃棄する。そのゴミ置き場に現れた小学生は、ゴミの中からコンピューターをもらい受ける。そのパソコンを使って秘密のアルバイトを始める二人。

誰ともコミュニケーションをとれなくなったと思われた女子高生が、パソコン=インターネットとい仮想空間を通して人と人とのつながりに目覚めていく。
という、まあ一見単純な話の内容なのだけど、これが綿矢りさの手にかかると、湧き出すような言葉の面白さと意外さ、リズムのよさで、なんだかウキウキとした気分で読んでしまうのである。
この文庫版の解説は高橋源一郎が書いているけれど、高橋好みの文体だなあ。若者らしくって、どこか言葉足らずのように見えて、すべてが十分っていう感じ。

芥川賞を受賞した「蹴りたい背中」でもそうだったけど、ここでの語り手である女子高生が、何の前触れもナク考えを変えたり話し言葉を変えたりする、その変わり身の速さ潔さが物語全体になんともいえないリズムを生んでいる。うまい。

ところが。
文庫版のため(たぶん)に書き下ろした「You can keep it」は、驚くほどあっさりとした、普通の青春小説だ。
子供の頃から「誰かにものを譲る」ことで自分の身を守ってきた青年。大学生となった今でも、誰彼となく自分のものを相手に譲ることで保身を計っている。そして恋をして、なんとか思いを伝えようとするのだが。

舞台が高校から大学に移り、主人公は大学生。ああ、綿矢りさも大学生になったのだな、と思ったけど。なんだか普通の「しゃべり方」になっていて、小説としてチットも面白くないのだ。そう。あまりにも普通。

先日、新聞紙上で最新作が間もなく刊行されるという記事が載っていた。なんと「蹴りたい背中」以来2年半ぶりの長編なのだそうだ。
そうか。あれから本になるほどのものは書いていなかったのか。
その間にどんな人生があったんだろう。かつて高校生で、高校生の口調で(しかししっかりとした世界があった)書いていた彼女は、その言葉を失ってはいないだろうか。

芥川賞を同時に受賞した金原ひとみは、その後も精力的に作品を書いているように思える。というか、彼女の場合は書くことで何かを発散しているようにも思えるのだ。
綿矢りさには、発散するようなものはないのだろうか。
もちろん金原ひとみと並べて考えるのは間違っているだろうけれど。ひょっとしたら綿矢りさは「発散型」ではないのかもしれないし。うん、たしかに「発散型」ではない。どちらかといえば「ひとりこもって考える型」かなあ。

そんな分類なんか、何の意味もないけどね。
ともかく、綿矢りさは、あの文体が魅力だとおじさんは思っていたのだけどなあ。どうなるんだろう。ちょっと心配になったのだよ、この文庫の2作の、その落差が。



岩波新書の「私の読書」は、奥付けを見ると1983年の刊行になっている。小説家、翻訳家、哲学者などなどが、自由に「私の読書」というテーマで書いている。
こういう短いエッセイをいろいろ読むと、世の中にはいろんな考えの人がいるのだなあと、改めて思い起こさせるものがあるなあ。
まあ中にはちょっと退屈な話もあるんだけど(作品の名前を並べられてもちんぷんかんぷんなのもある)、それぞれの人の「本」にたいする思い入れが語られるのを読むのは面白い。中に光る言葉がちょっとでも見つかると、宝物を見つけたような気になるし。
で、それは何だったかと聞かれると、もう忘れているのだな。宝物になりきれなかったね。残念。

by tacobu | 2007-02-09 23:57 |


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