人気ブログランキング |

たこぶ・ろぐ-日本一お気楽な48歳-

tacobu.exblog.jp
ブログトップ
2007年 04月 09日

不思議な妙なそして心に残るような

前に読んだポール・オースターの本は「リヴァイアサン」だったなあ。しかも途中でほっぽり出してしまったのだった。よお分からずにね。訳が悪かったわけではなく(同じ柴田元幸訳)、話の流れがつかめなかったのだな。なんの話やったんか、いまではすっかり思い出せない。
それに比べると「偶然の音楽」はわかりやすい。

妻に逃げられた消防士のナッシュに、突然父親の遺産が転がり込む。仕事を辞めて車を買い、ドライブを楽しむことに。1年以上走り回って、そろそろお金が尽きかけたころ出会ったのがギャンブラーのポッツィ。天才的な腕を持ちながら文無しになってしまったというポッツィに、残りのお金すべてをつぎ込んで富豪とのポーカーに挑むことに。「間違いなく勝てる」はずの勝負は・・・・。そこから話は意外な方向へと進んでいく。

物語の最初の方は、漂流するナッシュを追いかけていくのか、よくあるロードストーリーか、と思わせる。しかしポッツィに会ってから、話が変わっていく。おお、これは昔西部劇にあったような、あるいはあのスティーブ・マックウィーンやポール・ニューマンがでていたようなギャンブラーストーリーか、と思いきや、一見無駄に思える石積みをするハメになるふたりを描いていくという、安部公房の「砂の女」を思わせる展開になり・・・と、なんなんだ、この小説は。

「わかりやすい」といってもこの程度なのだ。いやいや、それぞれの場面が映像的なので、話の筋道を追いやすい、と言った方がいいのか。
それぞれの場面場面を追いかけていって楽しめばいいのかなあ。ただひとつ揺らいでいないのは、すべてがナッシュの視点で描かれているということ。そこだけを見ればどこかカズオ・イシグロの一連の小説を思い起こさせるものがある。ただし、事実を(それは語り手が語る事実なのだが)淡々と綴っていくという味わいのあるカズオ・イシグロとは違って、ポール・オースターはもっと刺激的。そして感情的だなあ。
安部公房と比べてしもたけど、確かにその臭いがする。そういえばふたりともカフカに深い影響を受けたという話を聞いたことがあるなあ。
そうそう、書きながら思いついたけど、この話の展開が意外な方向に(主人公の感情も)いってしまうのは、カフカにそっくりともいえるなあ。
そして、最後にはまるで、レコード盤から針をはずすようにぷっつりと話が終わってしまうのも。



別役実の「淋しいおさかな」というのは、池辺晋一郎が合唱曲にしていて、レコードも持っているのでよく聞いた。一度舞台で演奏しているのを聞いたこともあるけれど、なぜかレコードで聞くほどの感動がなかったな。それは演奏の善し悪しではなくて、「童話を合唱曲にする」っていうことの難しさというか、堂々と何十人もの成人男女が、まじめくさって歌っているのを見ながら聞くのと、ただ音楽だけ、言葉だけに耳を傾けるのとの違いのような気がする。って、ここは音楽のことを書くんじゃなくて、その原作となった童話の話。

図書館で「淋しいおさかな」の背表紙をみて思い出したのは合唱曲のことやったので、こんな話になったんやけどね。あらためて手にとって、後書きをみて驚いたんやけど、これはNHKの「おはなしこんにちは」で放送していた話なんやな。懐かしい。よく見てたよ。たぶんもう中学生とかになってたと思うねんけど。
だから中に収められている22編の童話のうち、いくつかは「ああ」と思い出せる話もあった。
そうそう、「白い小さなロケットがおりた街」では、朗読していたお姉さん(田島令子だった)が、読み終わったあとしくしくと泣き出して、
「これで・・・・おしまい・・・・」
と言ったあともずっと泣いていて、そのまま番組が終わったのだった。それが演出とかじゃなくて、読みながら泣けてきたっていうのが子供でも分かって、そんな様子をテレビで流すなんてことは(当時は)なかったから、びっくりしたのを憶えている。
今読み直すと、たしかに泣きたくなるような話だ。

で、そのほかの話も、どこか泣きたくなるような話がいっぱいなのだな。こんな話を幼児向け(だったらしい)の朗読として放送していてよかったんだろうかって思ってしまう。
幼児向けの童話といえば、普通は昔話でしょう。ほら「まんが日本むかしばなし」みたいな。そしてそれらはどこかに教訓めいたところがあったり、あるいは愉快だったり、あるいは怖かったりするんだけれど、別役実はちょっと違う。

表題作に代表されるように、ちょっと「淋しい」のですね。読んだあとに、心の中にちょっとぽっかりと何かが空いたような、あるいは何かが居座ったような、って全く逆の感情なんだけど、そんな思いにさせてくれる話ばっかりなんですよね。もちろん、すべてが同じような起承転結になるわけじゃないんだけど。それどころか、とてもバラエティに富んでる。

ナンセンスに終始する「象のいるアパート」や「馬と乞食」があるとおもえば、皮肉に満ちた「みんなスパイ」や「機械のある街」「穴のある街」「可哀そうな市長さん」、そして胸を締め付けられるような気分にさせてくれる「お星さまの街」「淋しいおさかな」「白い小さなロケットがおりた街」
ばらばらなテーマのように思えてまとまっているように思えるのは、舞台が「街」であること、悪人が居ないこと、そして「いい方向へいい方向へ」行こうとして結局破綻してしまうという筋書きか。でも悪人がいないのでどこにもその思い(怒りとも違う)を持っていきようもなく、ただむなしく空を見上げるとか山から街を見下ろすとかしかできないのだな。哀しいね。

ともかく、人の心の温かさ(そしてむなしさ)を読んで泣きたいひとは読んで下さい。泣けるよ。昨今の上っ滑りな感動とかとは違う、もっと心の根っこの方にある悲しさとか淋しさとかを思い出させてくれる。

ところで。この本にはしょっちゅう「乞食」さんが出てくるのだな。今朗読しようとしてもできないでしょうね。「馬と乞食」なんか題名からしてアウト。「二人の紳士」は街で尊敬されている(!)身なりのよいふたりの乞食が、隣町からやって来たみすぼらしい乞食を「りっぱな身なりに」しようと努力するお話で、とっても面白いんだけどなあ(結局、隣町の乞食さんは「更正」に耐えきれずに、隣町に戻ってまじめに働くことにするっていう皮肉話)。残念やなあ。

by tacobu | 2007-04-09 00:16 |


<< 阪神5-2中日      巨人2-0阪神 >>